2009/02/10

木を伐ると言う事,植えると言う事(1)

 現在,滋賀県の古い小学校(1935年築)の旧校舎の修復・保存活用計画に関っている。かつては東洋一と呼ばれたほどの立派な校舎である。その当時において日本全国さがしてもどこにもなかったであろう,テニスコート,囲み型の庭園,噴水修景池,学習菜園,厩舎などが整備されていた。庭には,当時まだ珍しかったであろうヒマラヤスギやメタセコイヤの大木も育っている。今回の改修のための造園計画で僕は,これらの樹木の現状と今後,建物と起こりうるであろう多くの問題点を考え,伐採する判断をした。これには,小学校OBであるご年配の方々の猛反対にあった。小さな頃から毎日,見慣れた大きな樹木が伐られてしまうのだからもっともな事だ。しかし,歴代の写真を見てみるとこれらの樹木は,創建当初のものばかりではなく,植えられたり伐られたりしてきたようだ。しかもそこからは,この2種の樹木の扱いを判らずして植えてきた経緯が見える。つまり日本においてはまだ成長の早さが判らず,建物のごく近くに植えてしまっていた。ところがその成長は,予想をはるかに超えたものだったようだ。そこで今回の校舎保存計画としてかつての先輩造園家が計画して植えたもの(結果として今の問題点を生み出すこととなってしまった)である以上,将来おなじ問題を起こさせないために今かかわる造園家が新たな判断をする。誰かがきっちりと判断しなくてはならない。僕は「伐る」という判断とその木の「世継ぎ」(伐採する木から挿し木苗を得る)を育て,植える場所を配慮し風景を再現することとした。無論,そんな事で伐採反対の方々の気持は収まらないが,一応の理解は頂けた。後はこちらが思う様に「世継ぎ」づくりが出来るのか。そこで植木屋を通じて挿し木の専門家に指導をお願いした。本日,わざわざ宝塚から駆けつけてくれたのが専門家Sさん。Sさんに教えてもらった挿し木の一番大切なポイントは,見極めだと言う。枝一本を見た時に,3年目の部位,2年目の部位,そして今年伸びた1年目の部位が判る。この2年目と3年目の境で切ると言うのだ。(つまり挿し木に使うのは1年目と2年目の枝)これを見誤ると発根がしにくいと言う。そして後は水やり。何事にも「見極め」は大切だ。さて挿し木の指導が終わった後,Sさんが僕に尋ねた「失礼ですがK研究室ご出身ですか?」。話しを聞くとSさんは,僕が大学時代在籍していたK研究室の3年後輩で,研究室の資料の中にあった僕の名前を覚えていたと言う。これには驚いた。予期せぬ研究室の後輩との出会いに,「世継ぎづくり」は上手くいきそうだと思った。「見極め」に加えて「ご縁」が大切。「縁」と言えば「ふち」である,これは「際」とも言える。「際」と「極」どこかでつながっている。【2009/02/09】Photo:ヒマラヤスギの挿し木の手ほどきを受ける関係者

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