2009/02/11

アーボリストと言う職業(3)

 奈良在住のアーボリスト・小林君からエッセイが届いた。今回はイチョウの話し。
 日本では漢字で「銀杏」と書く,これは種(実)のギンナンを「白く輝く杏(あんず)の種」に例えたことから。一方,生まれ故郷の中国では「鴨脚」と書く,これは葉っぱの形と色,つまり「鴨」(中国ではアヒルをさす)の脚に似ている事から。学名では「GINKGO」と書く,中国語の読み方そのまま。
 そしてイチョウと言えば忘れられない話しがある。それは8年ほど前に東京・谷中霊園での出来事。イチョウの大木の根が隣接する墓石を持ち上げてしまい,支障木として切り倒される事になった。イチョウの大木が生み出す周りの自然環境を守るために住民側として反対をしたものの伐採の決を下された。いざ,伐採作業に入るとあろう事か,伐った幹をつり下げていたクレーン車がバランスを崩し,その拍子にアームが中程でグニャリと折れてしまった。幸い人身事故には至らなかった。その後も作業員のチェンソーの刃が幾度となく折れ,数台のチェンソーが壊れてしまうなど毎日がトラブル続きだった。こんなことはそうある訳ではない。さすがに伐採作業を請け負った会社も,作業発注をした霊園管理事務所も真っ青になった。そこで我々の提案で急遽,お祓いを行なった。伐採作業はその後,トラブルも無く順調に進み終わった・・・と誰しもが思った,ところがどうだ最後に地際の幹の中心部から,直径45cmぐらいの丸い石が胎児のように出てきた。なぜ,丸い石が樹内に入っていたのか? 誰にも判らない。作業員達は最後に地面にぽっかりと空いた穴にその丸い石を納めた。彼らにとっては,明日は何が起るか判らないと言った不安の中での1週間だったようだ。切株の年輪を数えると120年以上あった。切株から吹き出す樹液はなんとも生臭く,切口は獣の皮を剥いだような色つやだった。植物と言うよりは動物的な感じ。その後,伐採反対を訴えてきた我々の提案でイチョウの幹の一部は公園のベンチとして加工され,また切株はイチョウの歴史を知らせるためにその場の近くに展示された。小林君が言う様にイチョウには信仰心を感じさせる何かがあるのだろう。【2009/02/11】

0 件のコメント: