2008/07/30

映画の中の植物/イラクサ


 先日、TVで映画「ネバーランド」(Finding Neverland)(*1) を観た。とても良い映画だったがここでは映画の中身には触れない。映画の中で植物が印象的なシーンが2つ。まず一つ目、主人公一行がロンドン郊外のコテージハウスで休暇を過ごす場面。カメラは車でやって来る一行を木々のこずえ越しに写している。周りに見える木々は、イングリッシュオーク(ナショナルトラストのマークに使われている)、西洋ブナ、そして近景にマロニエ(西洋トチ)。いずれもロンドンの市内、郊外の公園や緑地でよく目にする樹木。う〜ん実にイギリスらしい。そして次は一行がコテージハウスに到着した後、子ども達が外に遊びに走り出す場面、家の玄関で母親は「イラクサには気をつけるのよ!」と4人の子ども達にひと言。うっかりすると聞き逃すひと言だが実は、この「イラクサ」(*2) がロンドン郊外の環境を表している。市街地ではあまり見られない草だが、郊外の畑地や牧場など草を刈った場所や林辺に(つまり人の手が入った周辺)ごくごく普通に生育する。英名は「Common Nettle」(学名:Urtica dioica)、この草の茎には、細かな毛(トゲ?)が生えていて、うっかり触れようものなら「バッシッ!」という感じの(飛び上がるほどの:けっして大げさではない:日本のものより格段に強い)電撃的な痛みを感じる。痛みは一瞬ならともかく厄介なのはこの後、(例えば手首をさされると)腕全体がシビレ、刺された場所が小さな水泡状に点々とふくれる。そして痛みとシビレは数日間続く。痛みも痕跡も植物的ではなく毒虫的。こんな厄介な植物は家畜も食わない。刈っても刈っても旺盛には生えてくるので人間もあきらめ放置する。結果として群落として成長する、しかも畑や牧場、道沿いなど人が手を入れた場所に。映画の脇役として登場するオークやマロニエ、ブナそしてイラクサ。これらの植物はイギリス人にとって子供の頃に遊んだ記憶を呼び起こしてくれる、いわば原風景・原体験と言えそうだ。【2008/07/30】


*1 2004年公開のアメリカ・イギリス製作の映画(マーク・フォースター監督)、劇作家Sir James Matthew Barrie ジェームス・マシュー・バリー=ピーター・パンの作者(主演:ジョニー・デップ)が、ピーター・パンのモデルとなった少年と出会い、その物語を完成させるまでを描いた実話を元にしたヒューマンドラマ。舞台はロンドン市内の大きな公園、そして郊外のコテージハウス。


*2 日本のイラクサ(Urtica thunbergiana)の仲間だが別種なので「西洋イラクサ」と呼んだ方が良い。
 パソコンで「イラクサ」と入力して漢字変換すると「刺草」とでる。漢字では「刺草」と書くらしい。イラクサの学名は「urtica」で、「焼く」という語源があり、これも、イラクサを触った時のヒスタミンの毒による、「焼けるような痛み」から付いた名前。 イラクサは、「蕁麻」(じんま)という名で生薬として用いられる。蕁麻疹(じんましん)とは、イラクサの茎葉に細かい刺があり、指でさわると、いつまでも、痛くて痒くて、これによって起こる炎症を、蕁麻疹(じんましん)と言ったのが、ジンマシンの名前の始まりとされている。自らの茎や葉に棘を持ち炎症をおこさせる反面、虫に刺された時にはこのイラクサの新鮮な葉を良く揉んで出てくる汁を患部に塗布することによって毒消しや痛みを和らげる作用があるという。毒を持って毒を制すということか。 茎からは良質の繊維が、また新芽は食用になると言う。やっかいでもあり、ありがたくもある植物。

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