2008/07/26

庭を旅する/第一歩  近江兄弟社小学校の花壇 ★★★★☆



近江兄弟社小学校の花壇はとてもユニークである、ひと言で言うならば「アウトロー的な野性味のある花壇」。毎年保護者の方々によって維持・管理されている。その植物と育て方が徐々に変化してきた。今年はラベンダーやベゴニアの花株の間にイチゴ、トウモロコシ、スイカ、そしてキュウリなどが混じって育っている。この花壇をたかが「学校菜園+花壇」じゃないかと言ってしまえばそれまでである。これは新しい花壇のあり方として注目したい。そこには三つの注目点がある。
 まず一つ目の注目点:一年を通して花壇の維持管理はたいへんな苦労である。こと小学校の花壇ともなれば、学校美化、教材的利用、子ども達の安全、そして予算など、多くの条件を満たすことが必要となろう。だからこの花壇は、多くの保護者の方々の関わりと工夫の成果であり、生み出そうとしている一種の「CULTURE」だと思う。
 二つ目の注目点:英国のガーデンでもこのような傾向は近年多く見られる。GardeningもしくはEnglish Gardenというものは、人間が生活を維持するために自然界の仕組みをうまく利用した「耕す=農業や牧畜=CULTIVATE」から生まれ、イギリス独自のCULTUREとして今に至る。そしてそのEnglish Gardenは、今も時代の要求に応じて変化し続けている。そこには「エデンの園」や「アルカディア」という「夢の楽園」への憧れがEnglish Gardenの根底に流れているからだろう。そのように Gardenの中に菜園的な要素を持ち込むことは、「新しくもあり、懐かしい風景」があるのだろう。この花壇は、すばらしい建物(*1)を背景にイギリスのコテージガーデンの一隅の様相さえ感じ取れる。ここに兄弟社の歴史を活かした新しさを感じる。
 三つ目の注目点:兄弟社小学校の花壇は、結果として小規模ながらも持続可能な農法=自然農法と同じ考えでつくられていた。この自然農法は自然の生態系に即した農法である。花壇に植物群落を形成させることにより病害虫の被害も少ないはずである、結果として子ども達の安全を損なう農薬の使用もしなくてすむことになる。
 これら三つの注目点からは、新しい考えをあるいは試みをする際に他所からそれをコピーして持って来るのではなく、自分達が持っているものを探し出し、磨き上げて独自のものを生み出すと言う精神性を感じる。
そのような視点でもう一度この花壇を見ると、「CULTIVATE」=「生活の糧を得る」(例えるならば直接的な学科教育に依る結果)ことから、もう少し生活の装飾、豊かな生活を生み出す工夫として変化したものであると判る。やがて「新しいCULTURE」のなかから人が伝えるための表現や工夫が「アート」として生まれ、子どもの未来を左右する「環境」の視点も生まれるだろう。この一見、無管理・無秩序に見える「アウトロー花壇」は見ていて飽きないし、実際いろいろな発見がある。このユニークな花壇から新しい教育の「種」が生まれる気配を感じる。今後この花壇が熟成するために必要なものは、水・太陽・人の足音そして無管理的・無秩序的風景と植物の生育を容認する人間の気持である。誤解の無いように付け加えるならば、この「アウトロー花壇」は「ほったらかし花壇」や「花壇的空地」では断じてなく、より人との関わりを求めるものである。そしてこの関わりのあり方こそが私たちが街で目にする多くの花壇が失ってきたものだ。
*1 写真の建物は、近江兄弟社教育会館(1931年築)登録文化財
(写真2008/07/31)【2008/7/25】

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