2008/12/28

犬矢来(いぬやらい)

 自宅近くの大きなお屋敷の横を通ると新年を迎えるためお庭から庭師のハサミの音が聞こえていた。外塀の犬矢来(いぬやらい)も治したばかり。古い竹材の中に混じる青竹の部位がなかなかきれいだ。悪くなった部位だけを交換し続ける。全部を新しい青竹に変えてしまうよりもなんだかこちらの方が「遊び」や「ゆとり」そして「品」のようなものを感じる。こんなつぎはぎの模様がきれいなのも本物の材料としっかりした仕事だからこそ、プラスチック竹ではこうはいかない。
 犬矢来(いぬやらい)を辞書で引くと「道路に面した外壁に置かれるアーチ状の垣根。竹や木などでできたものが多いが、現在は金属製も多く用いられる。馬のはねる泥、犬走りと呼ばれる軒下を通る犬や猫の放尿から壁を守るもの。駒寄せから発展したとも言われ、泥棒が家に入りにくい効果もある。」とあるが、本来は雨の跳ね返りから家の壁の汚れや柱の地際の腐りを保護するための工夫。実際に犬矢来(いぬやらい)が巡らされた壁下をみると汚れや腐りによる痛みは非常に少ない。しかし今では、外塀にとって最大の迷惑は雨による汚れや腐り、イヌのオシッコ防止よりも、駐輪・駐車やゴミのポイ捨てのようである。【2008/12/27】Photo:@京都市左京区聖護院

2008/12/26

泥団子プロジェクト「NI-WA=NO-MA」

 ボーダレスアートミュジアム・NO-MAの地域交流事業「泥団子プロジェクト/NI・WA=NO・MA」のまとめ展が先週から始まった。3回にわたるワークショップの様子と最後に描かれた絵が見れる。土をこねる、草を触れる、劇を演じる、音を楽しむ・・・近江八幡の素材:水・土・植物・空気がこれほどまでいろいろな可能性と楽しみを与えてくれたことに心より感謝。加えて忙しい日常業務の間にこれほどの展示をしてくれたSさんにも心より感謝。地域交流事業・・?と考えると、僕たちは人と人の交流をイメージするが、人と人に加え「自然との交流」、人を支えてきた「町を知るための工夫」を土台に据えることで魅力的になることが判った。近江八幡を訪れる観光客のみなさんにも是非見てもらいたい。「泥団子プロジェクト」のまとめ展をご覧になりたい方は、受付でひと言声かけをして下さい。→会期終了しました。【2008/12/25】

NI-WA=NO-MA・その11=シードボール「かいわれ団子5」

 久しぶりに近江八幡のNO-MAの庭をのぞく。シードボール(八幡団子)は、2週間前よりもずっと緑が濃くなってきた。草の苗の背丈が伸びたと言う訳ではないが緑の勢いを感じる。すっかり泥団子の地面は見えない。そして団子島のど中に生えてきた水仙も同じく周りの砂利に生えているものよりも同じく緑の勢いが違う。なんだかシードボールと共生しているみたい。あと2週間もすれば水仙の花も咲きそうだ。緑の水盤に生けられた水仙・・・とてもきれいだと思う。【2008/12/25】Photo:@滋賀県近江八幡市 ボーダレス・アートミュージアムNO-MA 

2008/12/18

夜の京都府立植物園



 京都府立植物園の夜間観覧が先週末から始まった。昨日、仕事帰りに足をのばす。動物園では「ナイトサファリ」と称して動物の夜の生態を見せる試みもあるが、植物園の夜間観覧はあまり聞かない。夜間観覧は植物の生態を見せると言うより今回も例外ではなくイベント的(観月とか夜桜とかも含めて)なもので植物とはさほど関係はない。いわば集客のためのサイドメニューといったところか。イルミネーションのチープさやデザインの悪さはなんともしがたい、しかしゆっくり歩くうちにそんな思いはどこかに消えてしまった。暗闇を見ながらゆっくり歩く、嫌な雑音のない場所を歩く、しっとりとした空気の中を歩く・・・そんな時間の中から夜の植物の様子がよく判ったからだ。つまり動物と違って全くといって良いほど活動をしていない。昼間のような植物達のざわめきが感じられないのだ。やっぱり太陽光をエネルギーに変えて生きている生きものだと言うことが判る。入園料は200円、街の中でゆっくりと暗闇を歩ける時間は貴重でお買い得か。しかも温室の入館は特別に無料。外を歩いて冷えた体に温室のほんのりとした暖かさは格別。特別夜間観覧:12月13日(土曜日)から23日(火曜日)毎晩17時30分〜20時(入園19時30分)
【2008/12/17】Photo: 夜の温室(府立植物園のHPより)、植物園自慢の木・トウカエデ(上)とハリモミ(下)のイルミネーション。

2008/12/10

NI-WA=NO-MA・その10=シードボール「かいわれ団子4」

 近江八幡にあるボーダレス・アートギャラリーNO-MAの庭のシードボールの近況報告。沢山の実生(みしょう)がびっしり生えすっかり泥団子は見えない。数えてみると混ぜ込んだ種類の約半分・6種類ぐらいが発芽しているようだ。春になればもう少し種類が増えそう。【2008/12/10】
Photo:@近江八幡市ボーダレス・アートミュージアムNO-MA

2008/12/09

ベス・チャトー 荒れ地で育(はぐく)む奇跡の庭



 NHKハイビジョン特集「ベス・チャトー 荒れ地で育(はぐく)む奇跡の庭」 の録画を観た。(放送:11月27日、午後8:00〜9:50、NHKBShi)ベス・チャトー・ガーデンズは、荒地を美しい庭に変えた「奇跡の庭」と言われている。イギリス南東部エセックス州のこの庭は、かつて果樹園栽培地の中で農地としてあまりにも土壌が悪く捨て去られていた場所。ここの土壌は、2つの要素から成り立っているのだそうだ。ひとつは4千年から1万年も前の氷河期に、溶けて氷河が運んできた砂利が混じった土・・・。そしてもうひとつは、重い粘土質の土・・・。砂利と粘土を合わせ持つ、まさしく植物栽培には不毛の土地。そんな荒れ地を美しい庭に変えた「世界一のプランツ・ウーマン」と呼ばれるベス・チャトー(Beth Chatto)さん(85歳)。庭作りを始めて半世紀、イギリスでも一番雨が少なく乾燥し冬は零下、夏は30度にもなる過酷な土地で1年中ダイナミックな美しさを保つ「奇跡の庭」を作り出してきた。その秘密は植物を花の色だけで選ぶのではなく、葉の形や植物が育つ自然環境に徹底して寄り添い、生物本来の力を引き出すことだと言う。それは9年前に亡くなった夫アンドリューさんとともに育んで来た園芸の理論、そしてベスさんの人生の理念でもあると言う。
 庭は、大きく水辺の庭(WETLAND GARDEN)、森の庭(WOODLAND GARDEN)、そして砂利の庭(GRAVEL GARDEN)の3つのゾーンからなっている。特に砂利の庭は、乾燥に強い植物と砂利で構成され、水遣りを一切しなくても育つようエコロジカルな庭造りを実験。彼女の言葉で特に印象に残ったのが「庭づくりと言えども貴重な水を使っていていいのだろうか」、「庭づくりを道徳で考えるのではなくこれは哲学」、「これからの地球温暖化の時代の庭づくりをどう考えるか」・・・。半世紀に渡る経験を通して地球環境も考えて作る彼女の庭作りには、学ぶものが沢山ある。植物層に貧相なイギリスでは使用する植物の大半が他国から移入されたもの。植物に手をかけないでも勝手に育ってくれる日本とは異なり、移入した以上は人が管理をするのが条件、もしくは徹底的に自然風に見せるように手を加えてきた。そんな英国の庭に人が手を加えないでも維持出来るゾーンの提案、そしてそのゾーンにあった植物の選択、きっとそれまでのガーデニングにとっては画期的なことだったのだろう。
 イギリスの書店で目にした新しい考え方「エコロジカル・イングリッシュガーデン」や「オーガニック・ガーデン」。一方、日本の庭づくりでおまじないのように使われる「イングリッシュガーデン」。どちらがどうと言うことではないが、英国ではどんどん時代のなかで変わっていく庭との関り方と考え方。ここにイングリッシュガーデンの本当の魅力がある気がする。
 番組のシーンの中で面白かったことが一つ。彼女が若いガーデナーにネギの植え方を教えている。ネギの苗を地面に開けた孔(孔をあける道具は多分、折れたスコップの柄)にズボッとさして水をたっぷりと与えている。日本ではネギが高温多湿を嫌う植物であること、また倒れにくくする工夫として、予め乾燥させた苗をウネに倒して置き、根の部分に軽く土をかけるだけ。これは種類が違うのか、土壌が違うのか、気候が違うのか? 彼女が日本の植え方を見るときっと驚くだろうな。
 番組全体のストーリーメーキングが少し気にかかるが、彼女の庭での仕草や表情、インタビューは面白い。【2008/12/07】
次回放送予定:2009年1月3日 NHK総合8:00〜9:30

2008/12/05

フェノロジーを楽しもう

 仕事帰りに近くの岡崎公園を散歩する。昨日とはうってかわって肌寒い雨天。今日の雨で紅葉する樹々の下にそれぞれの色鮮やかな円模様が出来上がっている、落葉が雨で濡れて飛ばないので雨は雨でいい。トウカエデの並木でおもしろものを見つける。トウカエデはきれいな紅葉で公園や街路樹ではよく使われる、そのトウカエデの並木の中に一本だけ黄色の葉をつけたトウカエデがあった。地面に出来た紅色の円模様に一本だけ黄色の円模様。同じ種類の木なのにこれだけ色が違う。これも木の個性(*1)だろうか。普段、夏や冬には気づかない木の個体・特徴を見ることができた。だったらトウカエデの並木に紅葉する個体と黄葉する個体を交互に植えると秋におもしろい季節変化が楽しめるかなとも思った。他の樹木でも、例えばシラカシは春の芽立ちに緑芽と赤芽の色違いがある、ユズリハは葉柄(よいへい:葉の付け根の軸の部分)に赤軸と青軸(あおじく)がある、このように同じ種類の木でも個性がある。ほかに「このミカンはすっぱい!」も木の個性。僕たちは木の種類ばかり気にして、木の個性を見ることが苦手なようだ。
 僕たちは春の新芽や秋の紅葉、樹々と季節の変化を楽しむ。これは植物学で言う「生物季節学:フェノロジー=Phenology」を楽しんでいることになる。今までなんとなくぼんやりと見ていた庭木や街路樹の個性が際立つ季節を楽しもう。【2008/12/05】
Photo :手前が紅葉、奥が黄葉の落葉が作った輪模様 @京都市岡崎公園、奥の建物は京都市立美術館
*1:木が植えられている土壌や位置(風当りや、日照条件)によりけっこう変化が出ることもあります。